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北の旅  最終回「旅立ち」

 彼はあの時、僕と別れてから、小樽で1泊して函館へ向かったらしい。高速に乗らずに下道でトコトコここまで来て、これからえりも岬を経て道東へ向かうのだと僕に話してくれた。僕は富良野を経て道東を回って来たのだと、ざっくり説明した。

「で、これからどこへ行くんですか?」

 彼は子供のように目を輝かせて僕にそう訊いてきた。僕は、これからフェリーに乗って帰るのだと彼に告げた。

「そうですか……じゃあ、この旅も、もう終わりですね」

 急に大人の顔になって、少し寂しそうに彼はそうつぶやいた。

 港へ向かう道すがら、ふと思う。ここ2、3年の間に、いくつもの不幸が重なったことを。

 肺がんで友が亡くなった。葬儀所でその友の子をあやしていた別の友は、仕事中の車内で自ら命を絶った。その友の死に顔を見て綺麗な涙を流していたまた別の友は、まもなく呼ばれるように脳卒中でこの世を去った。

 原因不明の病に、今も苦しむ友がいる。障がいのある子を産んで、日々、闘っている女性もいる。半身不随の父は、ついに余命宣告を受けてしまった。

 生きている、それ以上何を望むべきことがあるだろうか。ましてや僕は今、大好きなバイクで大好きな北の大地を走っている。僕に足りないものなんてない。僕はこれで完全なんだ。

 どこまでも続くこの道は、これからどんな風景を僕に見せてくれるのだろうか。

 僕は生かされている。

 僕にはきっと、やるべきことが残されている。

 僕の旅は、まだ始まったばかりだ。

                 

                 (了)