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OFFICE SHIKA PRODUCE『親愛ならざる人へ』

3月9日夜、座・高円寺ホール1にて、OFFICE SHIKA PRODUCE『親愛ならざる人へ』を観劇。

作/演出:丸尾丸一郎 音楽:オレノグラフィティ

出演:奥菜恵 佐伯大地 久世星佳 丸尾丸一郎 鷺沼恵美子 梶山さと美

   木村さそり 矢尻真温 浅野康之 オレノグラフィティー

「ストレス臭いっ!」(本宮華)

『竹林の人々』から2度目のOFFICE SHIKA PRODUCE公演。これは、私の記憶では、座付き演出家看板女優の菜月チョビさんが、カナダに留学した時に始まったんじゃないかと思うのだけど、要は、丸尾さんを中心に劇団の「ミューズ」であるチョビさん抜きで・・・って言うか、客演を増やして劇団員をメインにしない公演を試みているプロジェクト。

本作は、もともと30分のラジオドラマだったそうなのだけど、珍しく丸尾さんの「青春記」じゃなくて、女性メインの結婚式の話。丸尾さんとしては、そろそろ私劇じゃないところに行きたい〜行かねば・・・という思いもあるようだった。

物語は、おそらく女子なら「あるある」感満載の、家族との関わりの話。

33歳厄年の本宮華は、結婚披露宴を明日に控えて、長年の夢である披露宴で読む「両親への手紙」を書こうとしている。感動的な手紙を書いて、注目されたい!とずっと思って来たのだけど、さて、書こうとすると、むくむくと邪念が湧いて来て・・・。

「お父さん、お母さん、今までお世話になりました」

1行書いただけで「ちょっと待て、本当にお世話になったのか?」と考える。

もちろん、育ててはもらったけど、共稼ぎ夫婦の長女で、苦労したのはこっちじゃないか? 小学生ながら友達とも満足に遊べず、妹の面倒を見たり、留守番したり、淋しかったけど親は年下の妹にかまけて自分はないがしろにされて来たんじゃないか?

そうやって思いは、子ども時代へ、青春時代へ、東京での暗い独身時代へ、と飛んで行き、これがすべて再現ドラマとして演じられる。

この話は、すべてカリスマ・ウエディング・プランナー(オテル・ド・アムール所属)の末広寿人(オレノグラフィティ)の輝かしい歴史の中のたったひとつの失敗した結婚披露宴の黒歴史として語られているので、狂言回し的に、オレノ君がいろいろ補足説明をする仕掛けになっている。お母さん(久世星佳)の証言なんかもあったけど。

ホテルの部屋で、「感動的な両親への手紙」が書けなくて、ジタバタしている華のところに、結婚相手の岡島(佐伯大地)がやって来て、明日の披露宴の細々したことで、ごちゃごちゃ言いだして、今更ながら「コイツはちっちゃい男だ」ということにガックリしたり、初めてオランダ(華は旅行会社の添乗員)で会った時のことを妄想したり、忙しい。華の妄想の心の友のキジ馬も出現して、華はさまざまな黒い想いを吐きづつける。

そうやって、眠れないまま、とにかく書き上げた「感動的な両親への手紙」を胸に披露宴にのぞむ華なのだけど、先に結婚して子持ちの天真爛漫な妹(梶山さと美)がとんでもない歌を披露したり、司会を頼んだ「親友(鷺沼恵美子)」がテンパって使い物にならなかったり、ますます自体は混沌として行く。

そんな山あり谷ありの中、ついに「両親への手紙」を読み上げるのだけど、これが意外に平凡。「お世話になりました」から始まる普通のやつ・・・なんだけど、無事済んだと思ったら、ここからがカオスで。実は、お母さんもお手紙書いて来ました、いや、お父さんもお手紙書いて来ました、いや、新郎の岡島も〜と暴露合戦に発展する。披露宴はめちゃくちゃ、客は怒って帰ってしまい、ひとり取り残された華は・・・。

座・高円寺のホールのフラットな長方形の「箱」を対面式の二方正面の舞台にして、天井からはシャンデリアがいくつも下がり、片方の壁にはステージ、片方にはピアノなどの道具、劇場全体が飾られて、ホテルのロビーか結婚式場のようになっている。オープニングでは、さりげなく登場したオレノ君が、客に「いらっしゃいませ」「どちらからいらっしゃいました?」とか、客いじりをしながら芝居の中に入って行く感じ。披露宴には、当日配布のパンフレットに印が入っていた人が数人、舞台上に挙げられて「招待客」となる場面も。そんな感じの観客参加型?、けっこう楽しかった。

何よりも奥菜恵ちゃんの可憐なウエディングドレスと裏腹な、黒いひとりごとの振り切れ方がなかなかで、この人、やっぱり舞台向きな人なんだと思わせる。初舞台だった『アンネの日記』とか初演の『キレイ』とか、この人で観ていて、その印象が強い。

この話のオチは、奥菜恵ちゃん演じる華の「ひとりごとの声が大きい」ということ。心の友、妄想のキジ馬に心の中で言っている言葉が、実はだだ漏れで、みんなが知っている〜ということなんだけれども、まあ、罵る罵る、すごい勢いで毒づいていた。

そして腹が据わっていながら、すっとぼけた味のお母さんを演じた久世星佳さん。

女優になってからの彼女で、一番好きだったかも知れない。

ずっとピアノを弾いて、舞台を支えたオレノ君の頑張りも。脱がないオレノ君って珍しいかも。

ちょっとニンマリしたのは、華の田舎が、熊本県人吉であること。

だから、郷土玩具の妙に不気味な「キジ馬」が出て来るのだけど、人吉って言えば、つかこうへいさんを思い出す。劇団鹿殺しも、つか劇団のコピーから出発した「つかチャイルド劇団」のひとつだから、やっぱりここは「人吉」よね。

で、なんと、この舞台の最後に登場するキジ馬(雉子車)をモチーフにしたゆるキャラは、実在していて「ヒット君」という本物だったらしい。中盤に登場していたのは、本当の雉子車を着ぐるみにしたものだったので、舞台で2体の被り物を使い分けていたと思う。ヒット君の中に入っていたのは「お父さん」(丸尾丸一郎)だったのだけど、おそらくキジ馬の方も丸尾君だったんだろう。

ぐっちゃぐちゃの披露宴は、でも心の中にあることを全部、吐き出して、ある意味すっきりして家族は新しい絆を得る〜というところで終わる。カリスマ・ウエディングプランナーの汚点も、唯一の失敗披露宴ではあるけれど、実のところ、一番成功した披露宴かも知れない。この辺、ほっこりする終わり方ではあるけど、ちょっと予定調和過ぎな気がしないでもない。

でも、先日の『陥没』でもケラさんがプログラムに書いていたけど、丸尾君も「今だから、ハッピーエンドが書きたかった」って言っていて、やっぱり社会は暗いんだなぁと逆に危機感、感じたりして。

珍しく高円寺まで行ったので、ちょっと調べて、終演後は北海道バルというものに行ってみる。ちょっと味が塩辛かったけれど、なかなか美味しかった。最近は、面倒なので知っているところに行きがちだけど、たまに知らない店に行くのも良いね。